キリスト教　東京鵜の木教会｜創世記 第46章

46章1節 ①

イスラエルは、彼に属するすべてのものと一緒に出発し、ベエル・シェバに来たとき、父イサクの神にいけにえをささげた。

息子ヨセフを失った後のヤコブは、「私の神よ。私の魂は私の前でうなだれています」（詩42・６）ではなかったでしょうか。しかし今、ヨセフの所に行く途中、ベエル・シェバで祭壇を築いて父祖の神を礼拝しました。

この地は、祖父アブラハムが井戸のことでアビメレクと契約を結び（21章25～31節）、父イサクも同じ所に井戸を掘った先祖たちの「いのちの水」の場でした。うなだれた彼の魂は、「神を待ち望め。私はなおも神をほめたたえる。私の顔の救い、私の神を」（詩42・11）とこの地で奮い立ちました。

友よ。あなたの魂はうなだれていますか、それとも奮い立っていますか。うなだれているのは、祈っても神の御業が見えないからではありませんか。しかし、ヤコブは20年近くうなだれていましたが、彼に神の御業が見えなかっただけで、エジプトで確実に進んでいました。

さらに友よ。あなたの「ヨセフ（イエス）」は生きているのです。だから、必ずあなたを迎えに来てくださいますから、「最初の確信を捨ててはなりません」（ヘブ３章14節）。

46章1節 ②

イスラエルは、…父イサクの神にいけにえをささげた。

まことの礼拝とは何でしょうか。パウロは、「あなたがたのからだを、神に受け入れられる、聖い、生きた供え物としてささげなさい。それこそあなたがたの霊的な礼拝です」（ロマ12章１節）と言いました。

この聖句から、礼拝とは「献身」だとわかります。しかし、献身を、神のために自分の何かををささげること、と間違ってはなりません。献身とは、自分を主の十字架にささげる（つける）ことです。

また同じく、聖霊の満たしという時、何か不思議な現象と結びつけやすいものですが、それも違います。聖霊の満たしとは、聖霊に自分が支配されることであり、それは自分の十字架を負うことです。

「礼拝、献身、聖霊の満たし」は同じ次元のものです。それらは、いずれも「自分が死んで、主が生きる」（ガラ２章20節）こと、すなわち「自分の十字架」を負うことです（マタイ10章38節）。

愛する友よ。私たちもイスラエルとなったヤコブと共に、いけにえとして自分を神に献げましょう。アブラハムが、イサクが、ヤコブが献げた神に、あなたも私も献げているのです。彼らの神が私たちの神であるとは、驚くべき特権です。

46章2節 ①

神は、夜の幻の中でイスラエルに、「ヤコブよ、ヤコブよ。」と言って呼ばれた。彼は答えた。「はい。ここにいます。」

ベエル・シェバで礼拝した夜に、神はヤコブに幻の中で現れました。彼がヤボク川でイスラエルとなり、希望と共に再出発した7年後に、息子ヨセフを失い、ヤコブの希望は、暗い夜に閉じ込められました。それ以後の彼は、神の御臨在に触れることもなく過ごしたことでしょう。

詩篇130篇には、「主よ、深い淵から、私はあなたを呼びます」と、主とそのみことばをひたすら待つ人の祈りが記されています。クリスチャンの苦しみとは、世の中の暗さや困難の大きさ以上に、主が見えなくなることです。また、主に約束されたことが、間違いだったのでは、と思えるときです。主が見えるならば、約束も信じられます。

一億人の中で、孤独、淋しさ、不安の夜に包まれ、「主よ、いつまでですか」と待つ友よ。あなたには、同じところを通ったヤコブと、夜を経験した先人と、今、真夜中にいる友も多くいます。だから、孤独ではありません。この詩篇（130篇）を、何度も、小さな声で、心を込めて読んでください。あなたの夜は、「イスラエル（あなた）を贖い出される」（創８節）との確信の言葉に追い払われます。

46章2節 ②

彼は答えた。「はい。ここにいます。」

かつてヤコブが神の声を聞いた時、ベテルでは条件を出し、ヤボク川ではケンカ相撲でした。しかし、今の姿は、かつてのヤコブ（押しのける者）から想像もつかないほど素直で、まるで、サムエル記に登場する幼子サムエルのようです。

人は、古いヤコブのように、御声を聞いても素直に反応できず、従えない訳を滔々（とうとう）と述べ、逆に意見すらするものです。そして祈る時は、「異邦人のようにくどくど（説得説得）」（マタイ６章７節・口語訳）と祈ります（漢字は筆者の当て字）。

かつての「複雑なヤコブ」と、今の「単純なヤコブ」、また「複雑で弱い信仰」と「単純で強い信仰」の違いは一体なんでしょうか。それは、神に自分の考えを差し出すか、自分自身を差し出すか、の違いです。幼いサムエルは、「はい。ここにおります」（Ⅰサム３章４節）と、口先の言葉の応答ではなく、語りかけてくださる主に自分自身を差し出していました。　

友よ。神は、あなたの意見や能力や雄弁さでなく、「あなた」を求めているのです。ヤコブとサムエルのように、「はい、（私は）ここにいます」と応える、単純で強い信仰者になってください。

46章3節

すると仰せられた。「わたしは神、あなたの父の神である。エジプトに下ることを恐れるな。わたしはそこで、あなたを大いなる国民にするから。」

神は、エジプト行きを恐れるな、とヤコブに言われました。それは、父イサクから祖父アブラハムがエジプトに下り、失敗したことを聞いたことも理由にあげられます。

聖書は、エジプトを「この世」の代名詞として使います。まことの神を信じず、偶像や人を神とする世界は、いのち・善悪・権威、力などの根本が「自己中心」です。そのような場所で、神の子たちが恐れず生きるには、どうしたらよいのでしょうか。

パウロは自分の経験から、「…主は、『…わたしの力は、弱さのうちに完全に現われるからである。』…。ですから、私は、キリストの力が私をおおうために、むしろ大いに喜んで私の弱さを誇りましょう」（Ⅱコリ12章９～10節）と言いました。「自分の弱さを知る」ことと、「神の力により頼む」ことの表と裏を一体にすることこそ、恐れない秘訣だと語りました。

友よ。エジプトに下る（この世で歩む）ことを恐れないでください。そこには、ヨセフ（主イエス）がおられます。あなたが恐れなければならないことは、ただ一つ、世（エジプト）に目を奪われ、ヨセフ（主イエス）を見失うことです。

46章4節 ①

「わたし自身があなたといっしょにエジプトに下り、また、わたし自身が必ずあなたを再び導き上る。」

エジプトに行くも帰るも主が一緒、とはなんと心強い約束でしょう。とは言え、約束というものは片方の熱意だけでは実現しません。

しかし、約束されるお方が神である場合は、人と人との約束とは違い、より確実に実現されます。なぜなら、｢万軍の主の熱心がこれを成し遂げる｣（イザヤ９章７節）からです。さらに、「わたしのはかりごとは成就し、わたしの望む事をすべて成し遂げる」（同46章10節）とも言われます。

主はヤコブとの約束に、「私自身が」と二度も繰り返されます。福音は「神が人にすること（恵み）」です。 神と人の間には単純な法則があります。

1. 神が人にしようとすることを（恵み）
2. 人が神に応えなければ（信仰）
3. 神はすることが出来ない（成就）

神は、人に御心を示し、人がそれを知り求めると、人の中に成就します。しかし、「エジプトに行って…再び導き上る」という出来事の成就に心を奪われ過ぎないでください。

御心に従う最大の恵みは、「わたし自身（神）があなたと一緒に」いることです。

46章4節 ②

「…ヨセフの手はあなたの目を閉じてくれるであろう。」

「あなたの子孫は地のちりのように多くなり…地上の全ての民族は、あなたの子孫によって祝福される」との神の約束は、反故（ほご）になったかに見えましたが、再び希望に変わりました。「この希望は失望に終わることがありません」（ロマ５章５節）。

右の「目を閉じてくれる」とは、仏教的な「死に水を取る」ことではなく、ヤコブに与えられた使命を、ヨセフが引き継ぎ完成してくれる、という意味です。誰でも死ぬまでに人生を完成したいと願うものですが、生きている間に完成できる人などいません、と言うよりも、人には不可能です。人の生涯は、神によってのみ完成されるものです。

中途半端な人生だったと悔やむ友よ。「あなたがたのうちに良い働きを始められた方は、キリスト・イエスの日が来るまでにそれを完成させてくださる…」（ピリピ１章６節）と約束されています。あなたの人生は、自分で完成するのではありません。ヤコブの人生をヨセフが完成するように、主イエスが「来臨、十字架、復活、昇天、聖霊降臨、再臨」によってあなたの人生を完成してくださいます。

46章6節

彼らは家畜とカナンの地で得た財産も持って行った。こうしてヤコブはそのすべての子孫といっしょにエジプトに来た。

ヤコブは、ヨセフが差し向けた車に乗り、一族と共にエジプトに到着しました。彼らの食料も財産も、飢饉によって底をついていました。ところが聖書は、「カナンの地で得た財産を持って」と記しています。

今、あなたが持っている財産は、お金、土地、家、能力、健康などですか。しかし、それらは飢饉（災害、病気、体力や能力の衰えなど）によって失われるものです。失われる可能性がなく、「飢饉」の時にも救いを与えるものこそ、本物の「財産」です（原語で「財産」は「生存」の意）。

彼らがカナンで持っていた財産は、「信仰によって、彼（アブラハム）は約束された地に他国人のようにして住み、同じ約束を共に相続するイサクやヤコブと共に天幕生活をしました」（ヘブル11章９節）より、祖父アブラハムが子や孫（ヤコブ）に蓄え残した「信仰」です。

財産とは、あなたに「生存（生命を与え、保ち、完成する）」を与える全能の神御自身に直結する「信仰」です。

友よ。あなたもアブラハムやヤコブの財産を受け、その財産を用いて生きてください。そして、あなたの子孫に、信仰という財産を残してください。

46章7節

彼は、自分の息子たちと孫たち、自分の娘たちと孫娘たち、こうしてすべての子孫を連れてエジプトに来た。

ヤコブは、一族を引き連れてエジプトにやってきました。この一団は、難民ではありません。エジプトの宰相、いや、神の御心に沿うべく天の父に招かれた人々でした。

神は、私たち神の子にも、「すべての家族を連れて、私のもとに来なさい」と招いておられます。しかし、全員を連れて行きたくても強制はできません。それには、結婚する時から、子や孫の誕生の時からの準備が必要です。その一番の準備は、神への強い願望（祈り）からです。そして、その願いは、「ヤコブ（肉の人）」ではなく、「イスラエル（霊の人）」の口から出てきます。

ヤコブが子孫と共に神の御心に従って歩み出せたのは、彼がイスラエルになっていたからです。信仰の先人曰く、「家族伝道は、自分自身への伝道だ」と。

しかし、友よ。気落ちしないでください。あなたの救いは、長子イエスが御自分を清い者（霊の人）として保ち、執り成してくださったからです（ヨハネ17章19節）。その主は、あなたの今の弱さを超えて、あなたの家族のためにも今も祈り続けておられます（同24節）。

46章8節

エジプトに来たイスラエルの子…ヤコブとその子…の名は次のとおりである。

エジプトに来た人々は「イスラエルの子」ですが、「ヤコブとその子」だったと言い直しています。その意味を、「自己中心な父の元で、自己中心に育った子たちだが、父が神の王子（イスラエル）とされ、王子の子たちとなった者たち」と受け止めては！

事実、「ヤコブ」の時の父と、「イスラエル」になってからの父では、価値基準、生活の仕方、子に対する心が違います。まして「子」にとって「父」は「権威」です。

昔のヤコブは、「自分の権威」で家族を動かし、尊敬を失いました。しかし今は、「神の権威」によって家族を導き、尊敬を受けるようになりました。

イエスが父なる神を慕い仕えたのは、父に愛されていたからです（ヨハネ15章９節）。子たちの心を神に向けるのは、ヤコブ（自己中心）ではなく、神の愛の権威を持つ「イスラエルの心」です。

友よ。権威は、誰かを守るために与えられる神からの賜物です。したがって、あなたが家族や隣人にもつ神の権威の大小は、あなたが神から受ける愛の量に比例します。だから、まず、あなたが父なる神の胸に飛び込んで守られてください（同12節）。

46章26節

ヤコブに属する者、すなわち、ヤコブから生まれた子でエジプトに行った者は、ヤコブの息子たちの妻は別として、みなで六十六人であった。

創世記は、神の創造物語と受け取れますが「系図の書」であると先に述べました。ただし、この系図は過去帳ではなく、神の子たちの系図、すなわち「信仰の系図」です。

「系図」なので、血筋を大切にします。「血」は「いのち」（レビ17章11節）です。また、「血筋」という場合は、「いのちの継承」を表そうとしています。

ヤコブの系図のいのちの出発は「神」であり、アブラハム、イサクを通してヤコブに届きました。今度は、ヤコブに「属する・生まれた」者たちに引き渡されます。そして、この系図の行き着く先は「神」です（ロマ11章36節）。

神の系図に入る者は、神の御心の地（エジプト）に導かれ、訓練され、増え広がります。この時の66人が、後にエジプトを出る時は数え切れないほどの人口になり、過ぎ越しの祭り（罪の赦し・十字架架）を行って、航海を渡りました（受洗）。

友よ。私たちは「イエスの血」（ヘブル10章19節）と「水と霊」（ヨハネ３章５節）によって「神の系図」に入れられています。これを守り（聖別）、伝える（伝道）ことは生涯の使命です。　

46章28節

ヤコブはユダを先にヨセフのところに遣わしてゴシェンへの道を示させた。それから彼らはゴシェンの地に行った。

ヨセフは、家族のためにゴシェンの地を選び、そこで羊飼いをさせ、信仰生活を守らせようとしています。ヤコブはその場所の下見に、ユダを選んで先に遣わしました。

私たちがこの世のどこで信仰生活を守れるかを、最初に調べることは大切です。職業、結婚、居住環境など、どれも大事です。それらの選びの基準は、「神に従うことができるか否か」です。それを見極めるには、兄弟の中で誰よりも苦しみ、主に近づいた人、罪の痛みと福音の喜び、霊のことを弁えているユダを遣わすことが最善です。

神は、私たちに先立つユダとして、アブラハム、ヤコブ、ヨセフ、預言者、使徒たちを備え、彼らを先に遣わしました。

先ずは、ユダ（聖書の人物）の報告（聖書に記された彼らの経験）を聞くことです。そして、彼らの経験から、自分が行おうとすることが、「神に従うに良いことか否か」、を知ることです。また、「この決断がどのような結果を生むか」を悟ることもできます。「このように多くの証人たちが、雲のように私たちを取り巻いているのです…」（ヘブル12章１節）。

46章29節

ヨセフは車を整え、父イスラエルを迎えるためにゴシェンに登った。そして父に会うなり、父の首に抱きつき、その首にすがって泣き続けた。

ヨセフは、数ヶ月前に兄たちと会って、人目はばからず大声で泣きました。今、父と20数年ぶりに再会し、年老いた父の首に抱きついて泣き続けました。

兄たちとの涙は、兄弟同士の再会と共に、彼らを悔い改めさせるために行った悪質とも取られる行為に、彼らがついてきたことへ感動でした。

父との涙は、なによりも愛する父に会えたからです。さらに、肉親であることを超えて、神を教えてくれた父であるゆえに、その喜びは倍加しました。

主イエスも、何度も涙を流されたことでしょう。父から離れ、人となられる別れの時。ラザロの家で（ヨハ11章35節）、悔い改めないエルサレムを見て、ゲッセマネの園で、十字架の上で、…そして、昇天し天に帰り、父に再会した時…。

友よ。神の子とは誰ですか。標準的な生活をし、常識的で、家族を守り、離婚せず、子をクリスチャンにし、老後の面倒もかけず…の人ですか。それ以上に、「アバ父よ」と言って父の神に抱きついて泣き崩れ、「主よ、もしそこにあなたが居てくださったら…死ななかったのに」（ルカ11章32節）と主イエスにすがりつき、神に泣きつく者ではないでしょうか。

46章30節

イスラエルはヨセフに言った。「もう今、私は死んでもよい。この目であなたが生きているのを見たからには。」

ヤコブが息子ヨセフと再会できたことは、息子と会えた満足以上に、神の約束の成就による、神御自身への満足でした。彼は人生に十分な満足を得、「もう今、死んでも良い」と心から言えました。

「もう今、この人と別れても悔いはない」と、心から感謝して愛する人を天国に送った多くの兄弟姉妹を見ました。彼らの心には、別離の淋しさや悲しみはありますが、魂から出てくるもう一つの感情、それは信仰により、聖霊から与えられる確信がそれを言わせます。

人の幸福は、「どんなことをしたか」ではなく、「どんな人になれたか」によって決まります。そして、どんな人になれたかは、「だれとどんな関係を持つことができたか」によります。

ヤコブは、子どもたちと心の通う親子関係を、神によって取り戻しました。また、それ以上に、自分と神との関係を確かめることができたので、「今、死んでもよい」と言えました。

人を本当に満足させるのは、「神との交わり」です。「書きしるせ。『今から後、主にあって死ぬ死者は幸いである』」（黙14章13節）とはこのことです。